序章『始まりの事故』

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雨が降っていたーーー その雨に濡れるのも気にせず、アスファルトにへたり込む少年の顔は眼前に広がる非現実的な光景のせいで蒼白に染まっていた 助手席側に白の普通車がめり込んだ大型トラックと、燃え盛る普通車の車内へと野太い声を張り上げて呼び掛けるトラック運転手の姿がそこにはあった・・・ あの中には少年の両親が乗っていた 最早、助かる見込みなど皆無である事はまだ子供の少年にすら容易に想像できてしまっていたが、彼の心だけはその現実を受け入れまいとしているのか、目の前に繰り広げられる惨事がまるでテレビでも観ている時のように一切のリアリティーさえ感じさせないモノとして映し出されていた そんな少年の傍らには子猫を運ぶ為のキャリーケースと、雨に濡れたアスファルト上に力無く横たわったままピクリとも動かなくなった義妹の姿があった・・・ 少年はただただ無力だった 彼は、この惨事を前に何一つ出来ずに傍観するしかなかったのだった あまりの絶望に泣き叫ぶ事さえ出来ない少年の心を代弁するかのように、冷たい雨だけが空から落ち続けていた だが、そんな雨くらいでは当然燃え盛る普通車の炎が消えるはずも無く、情け容赦無く車内にある全てを焼き尽くして行くのだった・・・
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