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小さくて……予想していたほどの重さも大きさもない、本当に小さな存在がとても大切に思えた。
親父にもうずっと前から俺は旦那様の御子息、もしくは御息女の執事になるんだと教えられて育った。
幼い頃からそのための知識や護身術を叩き込まれて、いつか対面する自分の主人のために優秀な執事になろうと努力した。
それが高ノ宮家の人間として当たり前の事だったから。
だから余計にこの気持ちがどれだけあってはいけないものなのかを知っている。
それなのに……そんな気持ちは漠然としたものとして留まってはくれない。
「まったく……なんでそんななのに教師からの評価はすこぶるいいのよ」
「そういう教育を受けてるんだよ」
自分の主人を好きにならない――なんて教育も受けられたらよかったのに。
「何笑ってんのよ」
「別に自虐的な冗談を考えただけだよ」
「何それ」
「それより放課後」
「わかってるわよ、ちゃんと付き合ってあげるってば、詳しい子見つけといてあげたって」
いつも助かってるけど、素直に礼を言うのはちょっと気恥ずかしい。
簡単に一言だけ告げると、座ったばかりの音無とは逆に立ち上がった。
「教室戻るの?」
「さぁ……あんま俺と二人っきりでいるとお前とも変な噂になりそうだからな」
「はぁ? あんたのは噂じゃなくて事実でしょうが! それちゃんと冷やしなさいよ」
母親みたいに俺の頬の腫れを気に掛けている。
高校に入って何人目か数えるのも面倒なくらいいた彼女に、何度目か数えていないけど全く同じ言葉を言われてフラれた。
今回はビンタのおまけ付きだった。
それじゃあ保健室付き合うかって尋ねると、真っ赤な顔で急いで拒否をしていた。
保健室でサボって爆睡しているだろう浜木に会いに行くきっかけを与えてやったのに、本当に素直じゃなくて面倒くさい。
そんな音無にヒラヒラと手を振って屋上を移動した。
「……いっ」
笑うと少しだけ口元が痛む。
切れてはいるかもしれないけれど、見た目問題なければまぁいい。
親父にとやかく言われるのは面倒だし、達樹様に妙な心配をさせてしまう。
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