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達樹様は俺が思っている以上に俺を大事に思ってくれているのかもしれない。
でもそれすら自分の都合の良いように捉えているだけかもしれない。
それでもただの執事でしかない俺を学芸会のあの席に招待してくれた。
衣装を喜んでくれた。
久し振りに旦那様と奥様と一緒にいられる貴重な一日に、俺もいないと楽しくないと言ってくださった。
達樹様にとってそのくらいには必要とされている自分が、眩暈がしそうなほど幸せに感じる。
一生伝える事はないだろうけど、それでもこの手が俺を引っ張ってくれるなら、どんなに苦しくても、そばにいたいと思った。
「達樹様、少々お時間を頂いても宜しいですか?」
「? 真っ黒のいつもスーツは駄目だよ。遊びに行くんだから、今のがいい」
「そうではなくて、ちょっと用事が……先に行っていてください。すぐに行きますので」
すぐに来てね、とふたりしかいない部屋で大きな声で叫ぶと、騒がしいくらいの足音が素直に遠ざかっていく。
携帯を手にその足音が完全に遠ざかるのを待っていた。
あの人は無意識だけれど、昨日腕に収まっていた小さな肩と、今、俺を引っ張ろうとした幼い腕で、しっかりと俺を捕まえてしまった。
今までもこれからもそうやって俺をずっと捕まえたまま離さないんだろう。
『もしもし』
「ごめん、今日なんだけど――」
別にこの想いを整理出来たわけでも、進展したわけでもない。
それでも、もう代用すら意味をなさないくらいにはまってしまっていた。
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