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豊崎家は予想以上の融資をしてくれてかなり助かって、当初資金として貯めていた分をほとんど使っていない。
勿論、自分達が出すべきところは自分達で賄ってはいるが、それ以上に助けてもらっていた。
せっかくプライベートで旅行に行くのなら、これから行かないようなヨーロッパや中東のリゾート地に行けばいいと思うのに、達樹の選んだ旅行先は沖縄だった。
日本の色々な料理を食べる事で、海外活動の何か参考になるかもしれないと言っていた。どこまでも自分の夢に誠実で、そんなところがまた好きだった。
「それじゃあさっそく行かないとですね」
「えー! なんか眠くなっちゃったじゃん」
「私は一時間寝てスッキリですよ」
「……ずるい。俺を目覚まし時計代わりにして」
クスクス笑いながら、ふたりでハンモックから追い出されないよう、そっと慎重に起き上がる。
「それにこれはひとり用のハンモックです。そのうちバキッと壊れるかもしれません」
「それは恐いかも」
ハンモックがもし壊れたとしたら、容赦なく地面に叩きつけられるだろうし、そのあとスタッフに申告したり、確実に一時間掛けて頭に入れた買い物プランは全て中止になってしまう。
それでもしばらく持ち堪えてくれているのを見ると、大人二人分までは重量がいっていないのかもしれない。
それを冗談半分で告げると、遠回しに自分の事をからかわれていると口をへの字に曲げた。
あの時も、衣装を渡した時もそうだったっけ……そして俺はこのへの字になった唇も可愛いと思っていた、なんて小学生相手に本当に変態だろ。
「? 何笑ってんの?」
不思議そうにしている達樹に微笑んで、そのまま唇に軽く触れるだけのキスを落とした。高校の時の俺には想像も出来なかった事だ。
「なんでもないですよ。羨ましがるかなって」
「? 誰が? ねー誰が?」
心地良いハンモックから抜け出して、部屋の中へと戻り水を飲む俺の後ろを無邪気に追いかけて来る。この無邪気さが天然だから恐い。
達樹がネットに齧り付いて調べた宿は個別の離れになっていて、庭まで付いている。
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