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これは持って生まれた達樹の才能なのかもしれない。
達樹が選びそうな面白いところだった。
宿自体は高級旅館でもなんでもなく、地元の人が経営している民宿のようなものだった。小さい一軒家のようになってはいるけれど、食事はその離れが囲っている中心のレストランで食べる。しかも高級な食材を使ったものではなく、いたって普通の沖縄料理。
建物自体は古民家のようでかなり使い込まれているけれどしっかり掃除はしてある、なんてところをチェックしてしまうのは執事の時からの癖だ。
宿の人もとても朗らかで、充分なトレーニングと教育を受けている高級ホテルのスタッフの笑顔よりも豪快で温かかった。
「誰が羨ましがるの?」
「私がですよ」
「?」
意味がわからない達樹はぽかんとしてしまっていた。
「ほら、行きますよ。ちゃんと帽子を被って」
滅多に被らないキャップを頭にぐりぐりと押し付けると、まるで子ども扱いされた気分なんだろう。またもや口をへの字にしていた。
沖縄の日差しは夏ではない今の季節でもやっぱり暑く感じる。
これが真夏だったら帽子だけじゃ不十分だろう。
道路に反射した太陽光と熱で、下からも上からもで丸焼きにされる気分かもしれない。
本当に一時間で買い物コースを頭に入れたらしい達樹は迷うことなくズンズンと商店街を歩いていく。
「最後に市場に寄ろうと思って」
「市場ですか?」
「うん。おじちゃんに魚買っていって料理してもらおうと思うんだ。俺も手伝いたいし」
どうやら宿を経営している人ともすでに友達になっているらしく、自分が料理の修業をしていた事を話すと、ちょっとした料理対決をするのはどうかと提案されたみたいだ。
達樹にとっては自分の腕試しが出来るとあってとても楽しそうにしている。
しかも使うのが見た事もない沖縄の魚だから、早く料理がしたくて仕方がないんだろう。
みっちり二年間しごかれた達樹の料理は、一緒に暮らし始めた頃とはもう全く別物に近い。
ただ達樹らしい温かい料理なのは変わらなかった。
素直で元気でいつだって真面目な達樹は教えがいがある。
一日中わくわくしている達樹はさっきからずっとはしゃいでいた。
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