第8章 専属執事

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達樹のあの皆に愛されるというのは、持って生まれた才能なんだろう。 海外活動のめどが立って会社を辞める時も達樹の話を皆がしていた。 きっと今でもそうだと思う。 この海外活動だってたくさんの人に支えられて実現出来た。 でもそんなふうに達樹を支えたいと思わせてしまう魅力が達樹にはある。 男女だけでなく達樹は年齢さえも関係なく友達になれる。 「すごいでしょ! 修行の成果だよね?」 宿の店主と互いに料理を振舞って、かなり好評だったせいか、部屋へと戻る足取りすら興奮気味だ。そんな達樹を見ているだけで自然と微笑んでしまうくらいなのに……。 「達樹、その格好はどうしたんです? そんなのいつ持って来たんですか?」 「え? 鞄の中に入れて、普通に運んだんだよ?」 忘れ物がないようにって一通りチェックした時には見かけなかった。 もしかして財布を入れていたあんなボディバッグに入っていたわけじゃないはず。 「お味のほうはいかがでしたか? 照義様」 楽しそうな達樹とは違ってこっちは落ち着かない。 達樹は黒のスーツに白いシャツ、おしゃれとはほど遠い、どこにも遊び心のないきっちりとした服装をしている。 まるで執事みたいだった。 「何を言ってるんです、達樹」 「えー? 執事だよ」 本人は気に入っているらしいけれど、溜息が出てしまう。 今夜はここの宿の店主と料理対決だった。俺は達樹の指示どおりに夕飯まで部屋でひとり時間を潰して、離れが立ち並んでいる中心のレストランへと向かい、愕然としてしまった。 そこには執事のような格好をした達樹が皆を席へと案内している。 言葉が出ない俺も、達樹にキリッとした口調で席へと案内された。 達樹は店主に頼んで今日はただの夕飯ではなく、俺達宿泊客を審査員に見立てた料理対決というイベントにしてしまっていた。 さすがに生まれてからずっと執事付きの生活を送っていただけの事はある。 給仕だっていたわけだから、礼儀作法は全て完璧だ。 自分が毎日してもらっていた事をそのまま真似てすればいいわけで、動作のひとつひとつが綺麗で見惚れる程だった。 なんて見惚れている場合じゃない。 元執事が元主人に主人扱いされてるんだ。 落ち着いて食事を楽しめるわけがない。
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