第8章 専属執事

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「私がやりますので、座っていてください」 「まだやるんですか? 執事ごっこ」 「ごっこじゃない! これは照義へのありがとうを込めてるんだってば! もうすぐで夢が叶うんだよ? たくさんの人に助けてもらったけど、でも照義がいなかったら絶対に叶わなかった夢なんだ。だからその“ありがとう”を込めて今日一日は照義専属の執事」 どこかに取扱説明書でもあるのかもしれない。 俺を喜ばせる方法が載った取扱説明書が。 「今日一日だけなんですか?」 「そう。本物じゃないから、それ以上やるとボロが出る」 真剣にそう説明する達樹が可愛くて、つい抱き締めると、慌てて腕で防御してきた。 「照義様!」 どうやら本当に真面目に執事をするらしい。 ローテーブルの上に泡盛と鞄の中から取り出したつまみを、おやつでも用意している時のように準備していく。 これでグラスがティーセットになれば完全におやつの時間だった。 達樹はこんな感じ? と顔に書いてこっちを覗き込んでいる。 「ありがとう」 その一言にとても嬉しそうにされると、こっちが困ってしまう。 「達樹も一緒に飲みませんか?」 俺の敬語にちょっと不服そうな顔をしたけれど、執事という立場を忠実に守っている今は従うしかないと思ったらしい。 「隣りへ……」 ソファを軽くポンポンと叩くと、ちょこんと遠慮がちに座った。 「そ、それではいただきます」 「どうぞ」 笑ってしまいそうになる。 旅行先でこんな可愛い執事に仕えてもらえるとは思わなかった。 ちょびちょびと口に付けて、アルコール度数の高さに驚いている。 ようやく二十歳を過ぎて飲酒出来るようになっても、普段はこんなアルコールのきついものは飲まない。一口だけでもクラクラしているようだ。 「平気?」 その一言にはっとして、背筋を伸ばして座り直している。 「こ、これっ! まず……くないです」 飲み慣れているものよりも格段に酒の味だから、本当はまずいって言いたいんだろう。 一生懸命無理に笑顔を作っているのが、おかしくて可愛くてついに笑ってしまった。 「なっ! なんで笑うんだ、ですか!」 「無理に敬語付けなくてもいいですよ」 「無理にじゃない! です」 溜息が出る……くらいに可愛い。
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