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『もしもし』
「はい……ご無沙汰しております」
『アハハ、こっちこそ簡単なエアメールだけですまない。達樹は元気に?』
電話を掛けてきたのは旦那様だった。
達樹の携帯の番号は知っているから、敢えて俺に電話をなさっている。
「はい。とても元気にしておられます」
『もう君に給料は払っていないんだから、そんなに固くならなくていいんだよ』
電話で聞くと達樹の声に少し似ている。
達樹のほうがもう少し澄んで柔らかい声だけれど、その旦那様が達樹と同じような事を言っていた。君はもう元執事だなんて。
「今、達樹様に」
『いや、いいんだ。あれの事は高ノ宮や豊崎家から色々聞いている。面白そうな事をするようだね』
「はい、もう来月には活動しております」
『私もちょっとやってみたくなって真似をしたんだ。言うとその国に怒られるから、どこでかは内緒だけどね』
旦那様のやろうとしている事はきっともっと大規模で世界すら動かす――そんな気がした。
親父も詳しい話をしないけれど、しない時は決まって俺には把握も出来ないような大きなプロジェクトが動いている。
まだ子どもの頃に旦那様は本当は世界を裏で操っているんじゃないかって、一度親父に冗談で言ってみたら、真顔で誤魔化された事があった。
そこまで大袈裟ではないけれど、それに近い事はあるのかもしれない。
旦那様はそれくらい笑ってやってしまうような人だから。
『我儘で無鉄砲だが、あれを宜しく頼むよ』
「はい、お任せください」
『それじゃあ、気を付けて――あっ! あと達樹にもう継ぐべき会社もないんだ。跡取の心配はいらないって言っておいてくれ』
驚いて聞き返そうとした俺に旦那様が豪快に笑って、電話を切ってしまった。
「……」
なんでも知っていたりして……なんて考えについひとりで苦笑いをしてしまった。
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