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電話を切ったとほぼ同時に、浴室から湯を張り終わったという合図の電子音が目覚まし代わりに達樹の耳に届いた。
「達、」
「あ! 照義様! お風呂が沸きました!」
「……まだ続いているんですか? それ」
寝ていたはずの達樹は急に飛び起きて、いつもの無邪気な笑顔を、ベッドに戻ってきた俺に向けている。
手渡した水をぐびぐびと飲み干すと、盛大に大きな息を吐いてベッドから飛び出した。
「うん!」
「さっきもう終わったのかと思ったのに」
さっき――甘く突き上げられる達樹は敬語なんて忘れて、可愛く喘いでいたのに、今はまた執事ごっこが復活したらしい。
「さっき楽しかったから♪ お背中流します♪」
「さっき?」
「ご主人様に苛められる執事ごっこ♪」
ニコッと爽やかな笑顔でとんでもない事を言い放った達樹にむせ返ってしまった。
「た、達樹?」
どこまでも無邪気で俺を振り回して虜にする達樹には、最近それだけではなく、小悪魔なんていう恐ろしい要素まで加わった気がする。
「早く! 照義、お風呂」
駆け足で風呂場へと駆け込んだ達樹が、ひょこっと顔を出している。
「達樹?」
「言い忘れてた! これって新婚旅行だから!」
「え?」
「もう照義は家族なの! だから六人でお揃いのTシャツ!」
まさか……とは思いながら、さっきの旦那様との電話と今の発言が重なる。
世界を動かせるんじゃないかって思ってしまう旦那様の血を受け継いだ達樹は、太陽みたいに明るく自信に満ち溢れて、いつだって俺の予想を越えて、俺を虜にしていく。
そしてその太陽は世界すらキラキラ輝かせていきそうだ。
「照義! 早く! 背中流すの!」
「――はい」
そして俺はその太陽に甘いキスをして、その笑顔にもっと虜になっているんだ。
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