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「バカだろ」
自分の気持ちのやり場に困って、好きでもない女と簡単に付き合って、それでも心はずっと上の空で、そんなのいつかはどんなに鈍感な相手でもわかってしまう。
そして数ヶ月、早くて数週間で今日と同じ結末を迎えるんだ。
いつまで経っても気持ちの逃がし場所がわからない。
わからないからまた同じ事を繰り返すんだ。
溜息を付きながら、切れた口元を痛みがぶり返すように指でなぞった。
「そ、それでお裁縫って初めてなんだよね? 高ノ宮君」
「ああ、でも君嶋さんが教えてくれるんだろ?」
少し覗き込んでみると、顔を赤らめて俯いてしまう。
「こらっ! 高ノ宮! 誰彼かまわず色目を使うな。少しは分別を持ちなさいよ」
「いてぇな……色目なんか使ってないだろ」
また覗き込むとせっかく顔を上げた彼女はまた急いで赤い顔を隠してしまった。
人の頭をポカポカ叩く音無を無視して、達樹様が自分で買ったまだなんの形もなしていない布地を机の上に広げる。
音無は見張り役だとか言って、一緒に教室に残っていた。
裁縫を教えてくれる事になった君嶋さんに俺が危険人物だとか、余計なアドバイスをしている。
別に俺から付き合ってくれなんて言った事は一切ない。
告白されて付き合ってって言われたから頷いただけなのに。
全面的に俺だけが悪い事になっている。
「あ、あの、これ高ノ宮君が自分で買って来たの?」
「違うよ。俺の主人がわざわざ小遣いを使って自分のだからって買ったんだ。偉いよね。まだ小学生なのに」
自分の事のように自慢してしまう。
「大変ね。主人ってあの、柿花のお家の……」
「大変じゃないよ」
そう、全然大変じゃない。
しいていうなら達樹様が買ったこの布が大事すぎて使ってしまうのが勿体無いって事くらいだ。
達樹様が学芸会でピノキオの妖精役を演じるから、その衣装を作ってほしいと頼まれた。
でも達樹様のあの言い方ではきっとその妖精が女だって知らないんだろう。
あの容姿ならドレスだって似合うだろうけど、そうもいかないだろうから。
「それじゃあ、まず型のとおりに布を切らないと……」
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