ぼくはいつだって。

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一つ、季節が過ぎた。 一つ、年を取った。 一つ、僕は感情を無くした。 気が付けば、僕は彼女の疫病神。 わかっていた、わかっていたはずなのに。 どうして、彼女を追うんだ――。 「何するの?!もうやめてよ、やめて!お願いだから!!」 確か、まだ六つにもならない頃だったかな。 君は僕に『やめて』と叫んだけれど。 「どけよ。おれはお前にじゃなくて、あよに話があるんだよ」 俗にいう色男か。小さな頃だけとは限らないが、どこかしらの女の子に手を出す。この男――僕には全く興味どころか、気持ち悪さしかなかった――は、幼馴染でもある彩葉に手を出した。子供だから、大人がやるような卑しいことはしないといえども、僕を怒らせるのは容易かった。 憤怒するまではよかったのだが。 僕は喧嘩が弱い。口の方もベタで単語しか出てこない。目は鋭い光を炯々と輝かせてはいたものの、ひょろひょろとした手足に、彼女より小さな体。そんな僕が彼女を守ってあげられることはなく。この色男の打撃を壁と化して、全て受け止めていた。守ってあげていたのに、彼女はというと―― 「もうやめて、やめてよぅ……いあくん、わたしなんか、まもらなくていいんだよ、もういいんだよ……」 綺麗な滴が、ぽたりぽたりと音を立てて落ちていく。それを僕は、見ていられなかった。今、していることが無意味になりそうで。僕が彼女を悲しませているみたいで。辛辣だった。それは相手も同じなのか、泣かれたのが心外で驚いたのか、色男は少しぎょっとして身じろぎする。乾いた土が、靴底をざりっとこするのがわかる。 「お、お……お前がなかしたんだからな!お、おれはわるくないからな?!」 「……(おまえが、あよをおいつめたくせに!)」 心の中で、悪態をついたのが悟られたのか、「けっ!」というなり、木の幹につまづきながらも、僕らに背を向けた。それでも彩葉は顔を俯かせて、その場に座り込んでいる。申し訳が立たないのだろう、と思った。自らが招いた事態を、僕の責任にしてしまったから、と。これらが恐怖の体験と相まって、彼女をトラウマという檻に閉じ込めたのだろう。 「私……。男の子が、怖いよ」 そんな言葉を、いつの日か聞いた。自分を否定された気がした。
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