ぼくはいつだって。

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「来年から高校生か、早いなあ」 中学生もあと数週間となった日、偶然彼女と帰ることができた日。だけど、彩葉は遠くの高校に行くとでも言いたげな、虚ろな目で、空を仰ぎ見ていた。 ――僕も行って、彼女を守らなければ!僕が守らねば、誰が彼女を守るんだ―― そうやって僕は、強い強い想いを張り巡らせ、大切な彼女の番人となった。番人といえども、特に出来ることはないのだ。影から見守り、時には彼女を忘れ物を届けたりする、その程度。 番人なんて肩書きは、大げさなものだと思わざるを得ない。その上、誰かに賞賛されたりするわけではない。けれど僕は、彼女の”番人”であり続けた。 あんな弱々しい、彼女を見たら。 あんな輝かしい、笑顔を見たら。 知らず知らずのうちに、僕は動いていた。彼女の傍へ、もっと近くへと。何処か狂気じみたものもあった。公にしてはいけない感情があったから。僕は。彼女を守るために少しずつ、感情を抑制した。悲しみから、順を追って影を薄くして。そのおかげか、今では表情筋がまるで役立たずだ。 僕はいつまでも、彼女の傍にいたいと、笑っていて欲しいと純粋に思った。 高校生となり、学校は遠いながらも必死に電車を乗り継いで、歩いて行っていた。日常は、多少なりとも充実していた。友達の数は心許ないが、とても気が合う人はいる。彼女もここに、この学校にいる。 (僕は今、幸せなんだろうな) 子守唄のように聞こえてくる、教師のありがたい話は、右から左へと流れていく。 そんなある日。 「私、男の子が怖くてね――……」 昼休みにする、そんな他愛のない会話。 でも確かに、彼女は男子を極端に避けている。 そう、この僕へさえも。 窓から吹きすさぶ緑の風は、そよりと彼女の髪を揺らす。黒い瞳がそれにつれて揺らいだ気がした。それと同時に僕は――。 (彩葉を、どこにもいかせたくない。ずっと、ずっと、僕の傍に――) はっ、と意識を戻す。今の一瞬で、自分が考えたこともないことが、頭の中で精製された。可笑しい、僕は何時からこんなことを。こんなおぞましい事を。歪んだ想いだと否定すると、そんなことはない、と怪しく口角をあげる自分がいた。 数日、数週間経っても、その歪んだ想いは消えない。 どうやら……一度ひずみが生まれてしまうと、修正はできないようだ。
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