ぼくはいつだって。

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日に日に、僕の心が歪む。すさむ。そんな自分が怖かった。 彼女をこのまま、傷つけかねないその心が、何よりも恐ろしかった。 (僕は、彩葉の傍にいない方が……彩葉は幸せだったのだろうか?) 僕みたいな奴に守られて、見張られて、迷惑だったのかもしれない。なにせ、僕は彼女が恐れる”男の子”なのだから。 今の時期は、湿った空気と風が、雨粒の匂いと家を運んでくる。陽はあまり照らず、アスファルトの地面には、小さな雨粒のたまり場がちらほら見えていた。いつもの帰り道を歩いている時だった。不意に、脳裏に浮かぶ不吉な言葉。 僕がいなくなれば。 僕が、この世界に存在しなければ。 彩葉の恐怖の対象が、一つ減る。それだけじゃない――。 それは誤りだ、勘違いだと言い聞かせるものの、聞く耳持たず。動かす脚は、家とは違う場所に、加速する。いやに物音がしなかった。だけど、目的の場所に着く頃、彼は意外なものを目にする。 あれは……彩葉?! 彩葉にとっていわくつきの――あの色男と争った懐かしくも憎い――広場。その場所に、彩葉は今の曇りがちな天気よりも険しくも、哀感漂う表情が、僕を動揺させた。彼女はずんずんと僕に近寄るなり、僕を見上げてこう言った。 「もう、こんなにおっきくなったんだね。いあくん」 そう言う彼女の顔は、とても嬉しそうだった。人懐こい、昔から変わらない笑顔を、至近距離で見せ付けられる。あまりにも突発的なことで、頭を掻きながらそっぽを向き、「うん」と小さく頷いた。 「あの時は、私よりもちっちゃかったのにね。それでも、いあくんは私の為に色んなものを投げうったよね。高校の進路先に、いあくんのあらゆる時間、そして今、いあくんは私の前からいなくなろうとしてる。永遠に」 何もかも、彩葉にはお見通しだった。けれど、肝心なことがわかっていない。 「彩葉、は……僕のこと、怖い、でしょ」 細々と、どもりながらも、自分が否定されるのを覚悟で言い放った。返ってきたのは―― 「そんなことない!絶対に……そんなこと、ないよ」 始めこそは、あたりに響くような咆哮に近いものだったが、ゆっくりと声色が優しくなり、僕の歪んだ、すさんだ心を包み込んだ。僕は何も言えなかった――何故か口が動かない。
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