ぼくはいつだって。

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急に鼻がつん、と痛くなり目頭が熱くなった。あれ?と疑問を持ち、流れ落ちた滴を手の甲で、受け止めるとそれは、昔沢山流したもので。 泣いているんだ……!この僕が。 感情を捨てきったと思った。もう僕は悲しむような、涙を流すようなことは二度とないものだろうと腹をくくっていた。のに、現に数年ぶりに流しているのは正真正銘の涙で。 (感情を捨てた日から、僕は心にひずみを生んでいたんだ……。大事なものまで捨てるから、僕の歪んだ想いがあらわになってたんだ) 申し訳なくなり、幼い彼女がしたように、顔を俯かせる。そんな様子を見て、ひどく懐かしむ、そう、昔を思い出したおばあちゃんみたいに、嬉しそうな顔だった。 「いあくんが気にすることは何もないんだよ。私は、いあくんを怖がったりなんかしてない。むしろ――ずっと気にしてたんだよ。今日みたいに思いつめてたり、一人で悩みを振り切るみたいに、頭をブンブンふってた時もあったから。だから、だからね――って、いあくん?!」 力が、全身から力が抜けていく。足は、自分を支えることもままならずに、折れてしまう。立たなきゃ、と思うのにどうやっても立ち上がれない。どうしたものかと考えていると、目の前にはきめ細やかな肌で白い手のひら。 「あの時も、いあくんは私をこうやって助け出してくれた。守ってくれた。だから、今度は私が――」 いあくんを守ってあげるよ。 その言葉が、僕の何もかもを溶かした。涙なんて、先程からとめどなくあふれている。鼻水まで徐々に降りてきているので、必死に鼻をすする。これじゃあ、僕が泣き虫だった頃にそっくりじゃないか。自分を嘲るように、声を漏らす。空が暗くてよかったとつくづく思う。一生懸命、袖でふきあげるも地面はすっかり濡れてしまっていた。彩葉は、小さくため息をこぼす。
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