第1章 曇天

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ゆっくりと振り向いたピエロは涙を拭わずに微笑んで、何も持って無かったはずの手のひらから折り紙で折られた花を取り出し俺に差し出した。 それを黙って受け取るとさっき間違えて買ってしまったリンゴジュースを差し出した。 いつまでも眺めてばかりで受け取らないのでそれを押し付けて、灰皿のあるベンチへと向かうとピエロも付いて来て隣へ座った… 「…また一人眠っちゃって…」 聞いてもいないのに… 「…そう…」 煙草に火をつけて胸いっぱいに吸い込むと熱っぽい息と共に曇り空に大きく吐き出した。 ピエロは虹色のアフロを掴んで脱ぎ、それを足下の大きくて真っ黒なバッグに突っ込んだ。 真っ赤な鼻をもいで、頬のシールも剥がし、首元の蝶ネクタイも外して同様に… それから透き通るように真っ白な喉を上下させリンゴジュースを一気に煽った。 「ピエロはさ…その…眠っちゃった人の事を笑わせたの?」 俺から再び話し掛けられるとは思っていなかったのか、話し掛けた内容が意外だったか目を丸くしてこちらを向いた… 素顔のピエロは目の端を赤く染めて微笑んで頷いた。
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