たった二文字の勇気

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好きな人が出来た。 同じクラスの男子だ。 彼の好きなタレントや女優を調べて、髪型を真似したり、メイクを勉強したり。 聴いている音楽を見付け、その日にアルバムを買って一晩中聴いた。 積極的に話しかけた。 「その曲良くない?私もいつも聴いてるんだ」 「そのゲーム、面白いの?私にも教えて」 「昨日、あのドラマ見た?」 「昨日、帰り道でさー」 とにかくアピールした。 「サッカーしてるんだね。格好良いね」 「あのテストで80点とったの?凄い、頭良いんだね」 「髪型変えてみたんだけど、どう?」 「モテそうだよねー」 毎日、話しかける言葉を考えて、いくつもの言葉を重ねて行った。 気持ちを伝える為に、一生懸命に笑顔を作った。 いつも彼は笑顔で応えてくれて嬉しかった。 その内、彼の方から挨拶してくれたりして。 私の気持ちが伝わったのかなって期待したりもした。 張り裂けそうな胸を抑えながら、一生懸命、言葉と笑顔を作った。 でもある日、渡り廊下を歩いていると、彼が違うクラスの女子に連れられて来るのを見た。 その先には、俯いて、足を震わせながら立っている一人の女子がいた。 何度か見かけた事のある…そんな程度の女子だった。 髪も真っ黒で、制服も標準で、地味で目立たなそうな子。 彼女は彼が目の前に来てもずっと俯いて、口をぱくぱくさせて、みっともないと思った。 やがて風に乗って、小さな声が運ばれてきた。 震える声で 「好きです」と。 彼は驚き、戸惑いながらも、やがてこくりと頷いた。 私は彼を奪われた。 次の日、彼はいつものよう挨拶をしてきてくれた。 いつもより嬉しそうな笑顔で。 今度は、気持ちを隠す為に、一生懸命に笑顔を作った。 締め付けられる胸を押えながら、一生懸命、言葉と笑顔を作った。
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