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私は堪らず顔を背けていた。
そんな事を言われたら目も合わせられない。
「司が待ってるからもう行かなきゃ…。」
だから離して…。
私は鏡に向けて言っていた。
大きな鏡に映る等身大の二人。
これが今の私たちの姿。
二人とも歪んでいる。
「なあ本気?
本気で言ってんの?」
「本気よ。」
そうじゃなかったら今の私は何なの?
キリリと手首が軋む。
鈴が容赦なく力を入れる。
私の大事な手が…。
「ヴァイオリン…、まだやってんだろ?」
私は涙目になりながら鈴を睨み付けた。
「ハハ、嘘々。
知ってるよ、プロになったんだもんな。」
「離して…、」
「いいよ。」
「……。」
「その代わり一回やらせてよ。
昔のよしみでさ。
あ、違うか、それを言うなら姉弟のよしみでか。」
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