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「今、仕上げに入ったとこ」
実香のキャンバスを見やると、色鮮やかで明るい、無邪気な夢そのものの風景が広がっていた。
先生から「デッサンがちょっと甘い」と指摘されたから、そこはちゃんと直したみたいだな。
この子は素直なのだ。
実香の澄んだ声に、田中がまた半分だけ眼鏡の顔を振り向ける。
しかし、銀縁のレンズの奥で開かれた目は、打って変わって寂しげに映った。
これは、僕と実香が話していると、彼がよく見せる表情だ。
目が合うと、田中はまた眼鏡の顔を自分の創作に向き直らせた。
彼が視線を求める相手は、僕ではないのだ。
「今度は私も賞を取ってリベンジするから」
黒子のない、快活なシンメトリーの笑顔と朗らかな声音に「リベンジ」という言葉はいかにも不似合いだ。
多分、本人としても「チャレンジ」と大差ない意味合いで使ってるんだろう。
まだ話を続けたそうな実香に笑顔で頷きつつ、振り向かないもう一人のポニーテールの肩越しにキャンバスを盗み見る。
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