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僕らは互いに多くを語らない。言葉の力を知っているからだ。
友達や家族にはそれなりに語る。そうしないと伝わらないくらい、彼らは僕という存在に免疫ができてしまった。
彼女との関係は剥き身だった。同時に何重にも心が包み込んでいた。
一日一言。僕らの間にルールを敷いた。
一日のうち、どちらか片方が一言だけしか相手に言葉を届けられない。
そのくらいしないと自分達がすぐに忘れてしまうからだ。相手の存在を――その価値を。
今日は彼女の番だった。
「ときどきね。私って生きているのか、死んでいるのを忘れているのかわからなくなるの」
彼女はそういった。三等星までが顔を出した星空の晩に。
押していた自転車を止める。惰性で回る車輪が止まる。呼吸も少し、止めてみた。
僕は黙って彼女にキスをした。彼女は僕より早くに目を閉じてそれを受け入れ、やがて開いた。
どうやら疑問は解決したらしかった。
僕らは互いに多くを語らない。言葉の力を知っているからだ。
語らなくても、僕らはすぐ傍にいることを伝え合える。
明日は、僕の番だ。
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