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「スタート!」
アップの一周を回ったところで安井の合図。監督はこんな日に限って、用事とかで休みだ。
残念だな、監督。
今ここにいれば、部員みんなの凄まじいもがきあがきが見られたのによ。
先頭を走るのは二年の釜谷。その後ろにぴったりと付くのが藤枝、筧のコンビ。
特に目立つ動きもなく、皆の位置はそのまま。――だけど。
「あと二かーい!」
美桜のコールがかかった瞬間、ぴりっとした緊張感が増した。全員が奮い立つのがわかる。
早速飛び出して釜谷を抜いたのは筧。やつは中・長距離に強くて、攻めるタイプだ。
ちらっと後ろを見ると、一年は凄い顔でついて来てる松任以外は距離が開いてきている。あれじゃもう、千切れる。
そしておれの横を走る啓介は、いつも通り冷静で涼しげな表情だ。
「行かないのか、啓介?」
静かな答えが返ってきた。
「直樹が行ったら、僕も行く」
「ちぇ……」
牽いてもらう作戦は、とっくに見破られていた。
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