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変わらず筧が先頭を走り、すぐ後ろに藤枝。釜谷は三番手につけている。
まだ行かない。ギリギリまでキープだ。
「ラストー!」
わざわざ鐘を鳴らして美桜が叫ぶ。啓介が尻の前でコースの外側に向けて右手を二回軽く振り、指を三本立てた。
外から行くという合図だ。頭と目でタイミングを計る。
三、二、……一!
啓介の脚に力が漲る瞬間を捉えて、おれはあいつと同時に飛び出した。縦に連なる二年二人を、外周から一気に抜きにかかる。
「っ」
釜谷の声にならない呻き声みたいなのが聞こえてきた時には、二番目の藤枝を差して筧の後ろにぴったりと張り付いていた。
思わずにやり。
上手くいった。
残り30、このまま――
「!?」
視界が、前を走る啓介の背中が。
あとは白線を駆け抜けるだけの世界がぐらっと大きく揺れて。
トラックでバランスを失った俺は、すり鉢の底に投げ出された。
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