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「この錆びついたドアがそうなの?」
朋美がドアノブを掴みながら言った。しかし、ドアは開かなかった。
「修が施錠したんだ。あいつ、どこに鍵を仕舞ってるのかなあ」
見渡したところ意外と殺風景な部室に大事なものを隠す道理もないと、晶子は思った。
「ねえ、秀太さん。次の実力テストまで待ったらどうかしら?」
「先日の実力テストは数学だったから、次は英語か。来週火曜日の一時限目だね」
「だから、その後この非常口をチェックしたら良いわ。もし彼が不正をしてるのなら、必ず、この非常口を開けてタイムスリップすると思うから」
晶子の提案に秀太と朋美も賛成し、この日はそれで散会した。
晶子と朋美が校舎を出ると夕闇が迫っていた。二人は、雑談をしながら校門に向かって歩いている時だった。晶子は突然、微かな悪寒を感じた。
「朋美。ごめんなさい。先に帰って。わたし、チョット教室に忘れ物しちゃった」
「忘れ物?わたしも一緒に行くわ」
「いいの。悪いけど、先に帰って。お願い」
晶子の慌てた様子を朋美は不審に思ったが頷いた。
「わかったわ。じゃあ、ここでさよなら」
そう言って、朋美は独りで校門を出て行った。晶子は踵を返すと、辺りを見回した。
(いったい何かしら?メルサが言ってた生霊族の見張りが現れたのかな?)
晶子は校舎の裏手に回ってみた。そこは剣道場に通じる細い道が林の中を続いていた。
(こっちの方から、殺気が漂ってくるわ)
晶子は微かな悪寒を頼りに、剣道場の前まで来た。古い木造建築の剣道場は薄暮の下で、葉を落とし始めた木立に囲まれてひっそりと建っていた。
(懐かしいわ。今日は部活がなかったので静かなものね)
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