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「さあ、椿くん。怪我したところを見せて。応急手当てをするわ」
「俺は大丈夫だ」
「強がりを言わずに、見せなさい」
晶子は逡巡する俊介の右腕を取って、黒装束の袖を捲り上げた。俊介の二の腕に刀傷があったが、幸い深手ではなかった。
「少し、沁みるけど。我慢しなさいよ」
そう言って、晶子は救急箱から取り出した消毒液を目いっぱい、俊介の傷口に塗りこんだ。
「ううっつ」
俊介が顔を曇らせて唸った。
「あのサスケという生霊族の飛竜剣がかすったのね。君がやられるほどだから、結構な凄腕なのね、あのサスケは」
「俺が少し、油断しただけだ。次はきっと討ち取ってみせます」
俊介の強がりに、晶子は苦笑いした。そして、晶子は包帯で俊介の傷口をしっかり巻いてやった。
「ところで、どうして椿くんはあそこにいたの?」
救急箱に包帯や薬、鋏などを仕舞いながら、晶子が訊いた。
「この前、晶子先輩が生霊族に見張られてると言ってたので、放課後はこの格好で校内を見まわっていたんだ。それで、奴らがこの剣道場に入って行くのを見かけたものだから、懲らしめてやろうと思ったんだ」
「そうだったの。でも、あのサスケとオロチはいったいどこから来たのかしら。椿くんは知らないと思うけど、あの二人の飛竜剣は今年のお正月に北海道に行ったとき、精霊の里というところで、わたし見たことがあるの」
「そうだったんですか。あれは、生霊族の魔一族が使う仕込み刀だと、俺の爺様から聞いたことがあります」
「そう。その魔一族はわたしの母がそうなの。だから、わたしも魔一族の血を引いてることになるわ」
「ああ。だから、晶子先輩は真の秘剣を使う能力が覚醒したんですね」
「そうだと思うわ。でも、わたしの母の魔一族がわたしの命を狙うなんて変だわ。何か事情があるんだわ、きっと」
晶子はそう言って、背負い鞄から携帯を取り出した。二回目のコールで、桜田純一が出た。
「晶子さん。どうしました?」
「あっつ。先生。実は、今しがた。学校の剣道場の前で生霊族の魔一族が使う飛竜剣と対決しました。わたしは紅い生霊になって、アサカの力を使ったんですけど。その時、魔一族の一人にビームソードで彼の胸元をついたんです。そしたら、その男は水蒸気のように蒸発して消えてしまったんです。こんなことがあるんでしょか?」
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