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翌日のお昼休み、秀太は校舎二階奥の写真部にいた。卒業アルバム用に撮った写真の整理に没頭していて、晶子たちとの約束をすっかり忘れていた。そして、作業が一段落した時、そのことを思い出した。
(いかん。俺としたことが、約束を失念するなんて)
秀太が見上げた部室のキャビネットに鎮座している置時計は十二時四十分を指していた。
(晶子さんたち、生徒会室で怒ってるんだろうな)
そう思いながら、作業机の上を手早く片付けて、カメラバッグを肩に担いだ。生徒会室は三階の奥にあるので、秀太のいる写真部の丁度真上に位置していた。
(ここの天井から梯子を伝って行ければ早いんだがな)
そんな思いが秀太の脳裏を掠めた。
写真部の部屋にはドアが二つあった。校舎の廊下に通じるドアと、屋上から一階まで通じる非常階段のためのドアだ。だが、写真部にあるこの非常階段用のドアは長い間使われていなかった。
この秋葉高校の校舎は古く、建てられた時には写真部はなかった。写真部ができた時に急遽、二階校舎奥が改築されて写真部の部室ができた。その時同時に、新しい非常階段用のドアと二階から一階に降りるだけの非常階段が校舎の反対側に作られた。
そのため、校舎二階の生徒と職員は新しい非常階段を使い、三階校舎は従来通り、生徒会室の隣にある非常階段用のドアから一階に通じる非常階段を使うようになった。そして、写真部の部屋にある非常用ドアは使用されずにそのまま施錠された形で残されていた。
(この昔の非常階段用のドアが使えればなあ)
秀太はそう思いながら、錆びかけたドアノブを握った。
(あれっつ?)
秀太は驚いた。施錠されている筈のドアノブが回り、ドアが開いたのだ。目の前に非常階段の踊り場があった。そして、その階段は真っ直ぐ三階につながっていた。
(驚いたなあ。よし、これを使えば生徒会室はすぐだぞ)
秀太は喜んだ。そして、一気に非常階段を登り切った。
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