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119(承前)
サイコは担架(たんか)に横たわるカザンの胸に抱きついている。
「お兄ちゃん、目を覚まして。こんなところで死んだら駄目だよ」
涙に濡れた瞳で軍医を見あげていった。
「先生、お兄ちゃんは助かるんですか」
うつむき加減に軍医はいった。
「厳しい状態だ。心肺停止状態で、生命反応もない。集中治療室に運ぶから、きみもついてきなさい」
四人の衛生兵が担架をかつぎあげた。タツオは立つこともできず試合場の畳のうえから、運ばれていく幼馴染(おさななじ)みを見つめていた。
(自分はほんとうに東園寺(とうえんじ)崋山(かざん)を殺してしまったのだろうか)
頭のなかで何度も死の文字が浮かび、心を埋め尽くしていく。東島(とうとう)進駐官養成高校の一年生で、殺人者になってしまった。いくら現代の医学が進歩しているとはいえ、縦に裂けた心臓が再生可能だとは思えなかった。
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