119(承前)

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 担架で身じろぎもしないカザンは、眠っているだけに見えるけれど、完全に死んでいるのだ。ついさっきまで全身で「呑龍(どんりゅう)」の変拍子を刻んでいたのに。  クニがようやく事態に気づいたようだった。  青ざめた顔でいう。 「どうして、こんなことになっちまったんだ? タツオはただ右ストレートを打っただけだろ。それともあれは逆島家秘伝の必殺技なのか」  タツオはちいさく左右に首を振った。 「いや普通の右だ。特別なものじゃないし、カザンを殺そうなんて気もなかった」  衛生兵にもちあげられた担架が試合場の階段をおりていく。サイコが最後尾だった。階段の手前で立ち止まると、長い髪をなびかせてさっと振り向き、カザンの妹はタツオをにらみつけた。涙で濡れた頬(ほお)に長い髪が乱れて張りついている。 「逆島(さかしま)断雄(たつお)、たった今からおまえは兄の仇(かたき)だ。いつか必ず復讐してやる。貴様も同じ目に遭(あ)わせてやるぞ。覚えておけ」
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