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「ねえ、今日の放課後に遊びましょう?」
女友達が机に身を乗り出してそう言った。
私は腕組みをして、どうしようかなあとぼやいてみせた。
するとそこに突然彼が現れて、私が静止するのも振り切って声を出した。
「お前、俺のコト好きなんだろ」
私はその時、真っ白な顔になってしまったと思う。
女友達は怪訝な顔をして、立ち去ってしまった。後を追うように、彼も立ち去った。
私は一人席に取り残された。
遊ぶ約束はおじゃんになってしまった。
時計を見ると、まだ正午を少し過ぎただけだ。
彼はとうとう、精密な時計が狂ってしまったのだろうか。
てっきり私にあの言葉を言いに来たのだと思ったが、彼の瞳は本当に私を見ていたんだろうか。
女友達のほうを見ていなかっただろうか。
微かに胸が熱くなる。
私は一世一代の大決心をした。
放課後、私は席に座ったまま、宿題を広げた。もちろん、鉛筆は一向に進まなかった。
視線の端に映る、うつ伏せたま間の彼をじっと見ていた。
夕陽が窓から差し込んできた時、ようやく彼は席を立ち上がり、一直線に私の方へ歩き出した。
私は心の中で復唱した。
「好きよ」
彼のどこが好きかと聞かれても、はっきりとは答えられそうにない。
けれど彼という存在が、それだけで、私は落ち着かなくなる。
身体の奥底から歓喜が湧き上げてくるのだ。
ついに彼が私の目の前に立った。
さあ。
「――バカ、」
私は期待のあまりに耳が変になってしまったのかもしれない。
今、何て言ったんだろう。
「妬いたでしょ」
私はどれほど顔を真っ赤にしていただろう。
平手打ちだけではなく、今度は思い切りすねを蹴ってやった。
それでも彼は動じなかった。
少しも痛がらない彼が憎らしくなって、眉に思い切り力を入れて、睨みつけてやった。
「大っ嫌いなんだから」
私は泣いてしまったのかもしれない。
視界が滲んで、大好きな彼の顔さえ潰れてしまった。
彼の指先が身体を這った。
そう、言葉なんて本当はいらなかった。
この温かさが欲しかったのだ。
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