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「お前、俺のコト好きなんだろ」
風が彼の茶色い前髪を揺らしていった。奥に爛々と光る二つの瞳が私を見つめて離さない。
私はどれほど顔を真っ赤にしていただろう。
彼の白い頬を二、三回平手打ちにしたのだ。
すると、彼の頬が赤く染まった。
私は椅子を蹴り飛ばして、教室を飛び出した。階段を段飛ばしに駆け降りる。
そうだ、私は彼のことが好きなのだ。もう、ずっとずっと前から。
素直になれない自分が大嫌い。
まさか面と向かってそんなことを言われるなんて、思いもしなかったんだもの。
ああ、宿題、せっかくやったのに。
慌てて飛び出したせいで、うっかり教室に忘れてしまった。
今日が提出の締め切りだったのに。
明日でも先生、受け取ってくれるかな。
放課後に仰ぐ、真夏の夕陽は特別赤い。もう赤では言いきれないくらいの、とても奥深い色。
それが私を包む。暖かな息吹が肺の隅々にまで広がる。
私ばかりではなく、学校も、そして彼をも包んで、日が暮れた。
翌日から彼はゼンマイ仕掛けの玩具のように、毎日、同じ言葉を同じ場所で、同じ時間に、そして私に言うのだ。
「お前、俺のコト好きなんだろ」
からかっているのかと泣きだしそうになった日もあった。
けれど、いくらやめてと伝えても、いくら嫌いよとうそぶいても、彼はうんともすんとも答えない。
そもそも、彼は無口だった。
以前も、そして今日も、彼が誰かと話しているのを見たことがない。
だって彼は休み時間の間、いつも机に伏せているのだ。
私はとうとう、放課後に教室に居残ることをやめた。
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