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亮ちゃんは僕の母親方の叔父だ。
でも母とは大分歳が離れていたため、叔父さんという感じではなく僕らは兄のように慕っていた。
東京の小岩に住む僕の家からすぐ近くのアパートで亮ちゃんは暮らしている。
子供の頃、亮ちゃんはいつも家にいるので仕事をしていないと思っていたが違った。
いわゆる作家さんという職業。
アパートのボロさからいって売れない作家を想像したが、驚いたことにいくつかの小説を出版、週刊誌などのコラムを書ける程度には有名だったらしい。
そんな亮ちゃんから僕は様々な事を学んだ。心理学を利用した観察術から獲物の狩り方、BBQの手順などといったどうでもいいことまで。
今思えば豊富な知識も単に大人だから知っていたのではなく、取材や研究、積極的な勉学によって得たものだったんだと思う。
そして、亮ちゃんは僕をよく褒めてくれた。
カズは頭の回転が凄い早いから将来が楽しみだ、と。
残念ながら僕にはそれは皮肉にしか聞こえなかった。都内でも有名な進学校に通ってはいたが成績はクラスでも下の方から数えたほうが早いという状況だからだ。
以前、ムキになって言い返したことがある。
「適当なこと言うよ。僕が頭いいのならもっと成績がいいはずだろ?」
すると亮ちゃんは、まるで僕がそう言い返すことがわかっていたかのようにニヤリと笑った。
「学校の成績? そんなもん意味ねーだろ。暗記が得意な奴が上にいるだけじゃん。頭の回転の早さと学校の成績は比例しないぜ。まっ、中には回転も早くて暗記力もいい"化け物みたいな奴"もいるけどな」
「うーん。そういうものかな」
「世の中そーいうもんだって。勉強なんかクソだぜ、クソ! 社会にでてからなんも役立たねーんだから。きっとあれは忍耐力を養う為に……あっ、こんなこと言ったらまた姉ちゃんに怒られっか」
とけたけた笑った。
僕の中には、亮ちゃんの言葉がたくさん詰まっている。
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