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亮ちゃんの実家(もちろん僕の母親の実家でもある)は岩手県花巻市郊外にある。新花巻駅から車で10分と離れていない場所。住宅もまばらで閑静な土地柄だ。
葬儀は全て終わったが、土地ならではの風習なのか挨拶回り等がある両親は残り、明日から学校の僕と真尋は先に帰ることになった。
僕に新幹線の切符を渡し母さんは真尋へと向き直った。
「真尋ちゃん、こんな遠くまでありがとうね」
「いえいえ。最後のお別れができてよかったです」
涙ぐむ真尋はハンカチを取り出す。
湿っぽいのが苦手な僕はすぐに会話を打ち切った。
「ほら時間ぎりぎりだから、行くよ」
「気をつけて帰るんだよ」
「乗ったらすぐだから大丈夫だってば」
僕らは母さんと別れ新花巻駅の改札口へと向かった。
電光掲示板に表示された"やまびこ"の文字とその横にある時刻を手元のチケットと確認すると、やや斜め上から覗きこんできた真尋が口を挟む。
「なによ、まだ時間あるじゃない」
「そうだな。それより、おじさんに何かお土産買って帰ろうか」
「いらないわよ。お葬式にきたのにお土産なんて不謹慎じゃない? それに父さん出張で明後日までいないもん」
「不謹慎? そんなことないだろ。亮ちゃんだったら、せっかく岩手にきたんだから買ってけよ、っていいそうじゃないか?」
真尋は一瞬寂しそうな顔をした後、口角を持ち上げた。
「ふふ、言いそう!」
そして僕らは売店のお土産コーナーを物色し始めた。
真尋のお母さんは僕らが小さいころに病気で亡くなっており、今は父親との二人暮らし。
真尋のおじさんが甘いモノが好きなことは知っていたので、日持ちもして腹持ちもしそうな"かもめの玉子"に決めた。
「いいわよ、私が払うって」
「母さんからお土産代もらってるから。それよりほら時間!」
真尋が構内の時計を見ようと振り返ると長い髪がクルッと回った。
「げっ、やば!」
僕らは急いでレジを済ませホームへと向かった。
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