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1 湯気
友人と私はハイキングに行った。
「いい天気ね!」
なんて隣でノンキに言う友人が、はっきり言って私はキライだった。ちょっと金持ちだからって、アレを買ったとかコレを買ったとか興味のない自慢話ばかりするだからだ。
「やっぱりいい靴買ってきてよかったわ。全然疲れない。これ、いくらしたと思う?」
ほら、また始まった。うっとうしい話を遮るために、私は近くに生えている草を指差した。
「あ、ねえねえ、この草知ってる? これ、実は薬草なのよ。体にとってもいいんですって」
もちろんそんなのはでたらめだ。なんでもいいから友人の言葉をさえぎりたかったのだ。植物に詳しくないからわからないけど、たぶん毒だったような気がする。
「へえ」
自慢話に水を差されて、友人は少しムッとしたようだった。
しばらくして、私は友人の家にまねかれた。
「はい、これ」
友人はにっこりとティーカップに入ったお茶を出してくれた。
ただ、なんだか嗅ぎ慣れない臭いがする。
「前に教えてもらった、体にいいって薬草を使ったお茶よ!」
友人は、無邪気な笑顔を浮かべた。
ふと、台所の隅の棚に、分厚い本がおかれているのに気がついた。
『植物辞典』
そこに一枚だけ付せんが貼ってある。きっと、友人は私が適当に差した草を調べたのだろう。どうやら、私の嘘はばれたようだ。
「どうしたの? 飲まないの?」
友人はにっこりと微笑んでいる。
飲むべきか、それとも素直に謝るべきか。
私は湯気のあがるティーカップを見つめた。
了
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