くらがりの百足

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「かく言う俺も追い剥ぎで身を建てていてね」 男は言った。 「生まれは赤道から遥か北。今どうなっているか知らないが、当時アジア大陸の端に位置し、ぎりぎり島国としての体裁を保っていた『日本』と言う国だ。かつては緑豊かな国だったらしいが、俺が産まれた頃には自然の森なんてほとんど残っていなかった。故郷の村は行政に管理された国立公園の中、猫の額ほどの白樺の森の中にある小さな村だ。俺たちの種族はは地域によってエルフだのオーガだの天狗だの色々違った名前で呼ばれているが、俺らはその中でも一等凶悪な部類に当たることから、『鬼』と呼ばれていた」 「『鬼』か」 「あまり気持ちの良いもんでは無いが。実際、俺らの種族は人との交流は殆ど無かったし、ごく希に人間の伝承に登場することはあっても人間の社会と交わるなんてことは無かった。まあ、村を訪れる人間は即始末する掟になっていたから『鬼』なんて物騒な名前を付けられるんだろうが…」 「おう、どんどん喋れ」 痣は言い、男は続けた。 「…ほんの子供の頃、俺はその鉄の掟を破り、遭難していたどっかの研究者を麓まで生きて返したことで村から追放された。もうこの頃には寒冷化は始まっていて、人間は南へと大移動し始めていた。俺は盗みをしながら命を繋ぎ、港のコンテナに紛れ込んで、貨物船で赤道帯の『フィリピン』て国に無事逃げ込むことに成功した」 「ああ、そいつは聞いたことあるぞ。お前がその借り物の名前と刀を手に入れた場所だ」 「そうだ、これは前話したな。まあいい、フィリピンでのことは関係無いんだ。俺が『充血鬼』と出会ったのは、身柄が北米大陸へと移された後の話だからな」
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