くらがりの百足

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「いくつかの偶然が重なった結果だが、結論から言うと俺はずっと目を付けられていた」 辺りを泥臭い臭いが包んでいる。 「北米大陸に位置し当事世界最大の勢力を誇っていた『アメリカ』なる国は、その神経を世界中に張り巡らせていた。今じゃ想像もつかないが、電子ネットワークが地上を網羅し、個人や民族、国家の壁すら消え去っていた中で、あの国だけは旧態依然とした利権を守るために『国家』という形を死守してした。奴等は生き残りを賭けて、巨大なシェルターを開発したり、半永久的に発電できるシステムを開発したり、はたまた俺達のような、人間からしたら殆ど不死に思えるほど長寿の種族を研究したり…」 「分からん単語ばかりだな」 痣は不満気に言うが、男は気にも止めない。 「いいんだ、どうせ誰も理解できない」 そう言って、さらに続けた。 「長く続いた科学の時代が終わりを迎えようとしていて、抑圧されていた魔法や呪術なんてものがにわかに再興しはじめていたのはこの頃だった。今の時代何をするにも魔法は不可欠だが、当時は1000年以上も科学に押されてこの世から姿を消していたんだ、信じられないだろう。同時に、科学から存在を否定されていた俺達も、人の手の及ばない辺境の地で細々と種を繋いだり、人の社会に溶け込んで人として生きたりするしか無かったんだ。それが、その抑圧が無くなったもんだから、そう言った連中が表に出てくるのは当然だ。そして、滅びかけている科学文明とそいつらが出会うのも」 膝の上の刀を見下ろす。 「大西洋は既に凍りついていたから、陸路で3ヶ月もかからずに連行され、俺はすぐに奴等のモルモットにされた。『強化兵』技術なんてもんがあってな。今では完全にロストテクノロジーだが、簡単に説明すると自分の体のありとあらゆるパーツを、自分の細胞を元にした、さらに強化されたパーツと丸々交換することで身体能力や心肺機能、代謝効率その他の性能を著しく向上させる技術だ。その技術と、俺達のような『お伽噺の住民』の相性を確かめようとしたいたんだな、未だにその意味は分からないが。度重なる手術と思い出すたびに吐き気がするようなテストの後、散々弄ばれた俺はセキュリティの隙をついて実験に関係した連中を皆殺しにし、持ち物を回収して施設を脱出した。脱出したはいいが、当然すぐに追っ手がかけられた。そいつが『充血鬼』さ」
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