くらがりの百足

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「ケーヒル!!!」 扉を跳ね退けた黒い服の男は、フードの女を抱えたまま、だだっ広い屋内に向かい絶叫する。どこからか差し込む昼間のような光量の下、分厚い硝子越しに鬱蒼とした広葉樹の林が見える。その縁の草むらから、大声に驚いた大きな角の鹿がこちらを見ていた。 「お前のお望み通り、あいつの手下を引っ捕らえてきた。時間が無い、今から潜るからお前はこの女を生かし続けろ」 「…説明もそこそこに、しかも高難易度ときた」 その鹿が喋った。硝子に近づき、そのままそこをすり抜ける。飴細工のようにぐにゃりと歪んだ硝子を容易く潜り抜けたそこには鹿の姿は無く、代わりに灰色の髭の男が立っていた。  黒い男は傍にある木製の長机の上に白髪の女を寝かせる。 「鳩尾あたりに一撃食らわせた、心臓は外れているが出血が酷い。生体反応が消えればこいつの体内のナノマシンも停止する」 「逆探知か。『充血鬼』の操作は妖術の類いではなく、電子的な遠隔操作なのだな」 「それを確かめるためにやるんだ」 そう言って、男は白い女の右手を掴む。蝋のように生気の無い女のその掌に自らの掌を合わせた。 「中継機の位置情報だけでも引っ張り出す。もう昔みたいに逆探知なんてする奴はいないだろうから警戒はしてないだろうな。万一ヤバそうだったらぶん殴って叩き起こしてくれ」 それだけ言い残して、男はそこで意識を失い崩れ落ちた。
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