くらがりの百足

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 雨上がりの夕暮れのような、赤黒い薄明かりが照らし出す広大な空間に、幾本かの光が走っているのが感じられる。  実際に目に見えているわけではない世界が、彼の脳にイメージとして捉えられている。そこには遠近の感覚も、時間の概念も無い。掌の端末を通じて男が入り込んだそこは、「容量的に」無限大に広がる広大な電子の世界。かつてこの世界で栄えた文明の忘れ形見だった。  男はすぐ頭上…3次元的概念は存在しないが、3次元生物である彼には便宜上、そう感知されている…で尾を引いて光る、小さな光の塊を追う。それは垂直に延びる光の筋の一部であるようだったが、光はみるみる弱くなり、今にも途絶えてしまいそうだった。男は慌ててそれが繋がっている先へと目をやる。それがリンクしている先は、この空間の幾本かの光のほとんどが経由している所謂「HUB」であった。どこからかアクセス出来ないか探すが、どうやら権限を有する者の許可なしでは入り込めない造りのようだ。そりゃそうだ、と男は呟く。それならばせめてこれが何か、またはこの中継地の位置情報でも掴めないかと消えかけの回線に割り込みを試みるが、時既に遅くタイムアウトを食らってしまった。  男はそこに集結する光の行く先を覗いてみたが、いずれも複数の中継地点を経由しているのか一定以上先がどこへ通じているのか見えなくなっていた。その中で最も強い光線が、刀の柄のような形をした障壁に接続し、その中へ消えている。男は慎重にそれを観察する。制限はあるが、基本的に自由にアクセス出来る構造であった。罠かもしれない。ブービー・トラップに対して何ら対抗手段を持たない彼は、決してそれに触れないように接近し、光が接続しているゲートを覗き込み、そして息を飲んだ。
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