くらがりの百足

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「人工衛星だと…!?」 3時間ほど昏倒していた黒髪の男が目覚めてまだ間もない。ケーヒルの手当てを受け、一命をとりとめた白髪の女が眠る広いテーブルの端に腰掛けた彼は、柄にもなく叫んでしまったケーヒルの声に耳をやられて思わず顔をしかめる。 「怒鳴るな、感覚器官が戻ってない」 「驚くなと言う方が無理な話だ。最後の1基が打ち上げられて、一体どれほどの時間が経過したと思う」 「8万年か、それ以上か。確かに驚くべきことと言えばそうだが、全くあり得ない話では無い」 男は言った。 「地上を覆い尽くしていたネットワークの消失から8万年、ご存じのように人間共は、彼らが造り出したものの中で最も耐久性の高いモノにそのハードとソフトの役割を一気に担わせ、『ゴースト・パック』によって無制限の寿命を得た奴等の同胞の拠り所となるよう画策した。それが俺やアンタだ。俺達は歩くハードにしてソフト。差し詰め、生きた情報端末と言った感じかな。けどよおっさん、生きている、と言うことは、奴らにとって両刃の剣だ」 「当然だ」 大男は唸るように言う。 「生命である以上、環境への適応力は動けぬ機械のそれを遥かに凌駕する。その反面、生きている、と言うことは即ち意思を持つことと同意だ。そのことはつまり、集団の中に一定数以上の跳ねっ返りを抱えなければならんことを意味している」 「…よう分からんが、その跳ねっ返り、てのがお前ら二人だってことだけは分かったぜ」 痣がしゃがれた声で言うのに、黒い男は鼻をならして答えた。 「俺達だけじゃないさ」 そして続ける。 「司祭者、醒者、神官、その他この街や国の中枢に居座るよく分からん権威や権力を持った連中。あいつらは一体何者なんだ?人間か、魔術師か、はたまた俺達と同類か。用心しろよケーヒル、この件、今までみたく適当にやってると思わぬ所から思わぬ痛手を喰らうかもしらんぞ」
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