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意識の戻らない女をケーヒルに任せ、痩身の男は壊れた草履を手に持ちその場を離れた。ケーヒルは居場所がばれていることのリスクを指摘したが、男は気に留める様子も無かった。
「むしろその方が都合がいい」
男は言った。
「わざわざ向こうの、しかも本丸が出向いてくれるって言うんだ。扉はこの路地に繋いだままにしておいてくれ。んで、女の意識が戻ったら事情を説明してやってくれ。そいつは頭がいいから、きっと『何か』するはずだ」
「よかろう、私はその『何か』をここで待とう」
大男は髭を触りつつ言った。
「くれぐれも用心しろ、お前は確かに闇に紛れることに関しては一流だが、ここ最近の尾行の件もある。敵の監視の目は既にお前を見付けて久しいし、今までのように逃げてばかりではないだろう。取るに足らない仔犬程度の尾行だったのが、今に狼が飛び出してくるに違いない」
「分かってる」
黒い男は言った。
「やっこさん、この12年で力を蓄えきったんだろう。俺達がぐずぐずしている間に考え得る限りで最悪のシナリオを辿ってしまったみたいだ。この女を送ってきたのは向こうからのメッセージさ。『Shall we dance?』てな」
そう言い残して、扉の外に消えた。
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