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「これではっきりした」
帰宅した痩身の男は刀を抜き、重ねて厚くした麻の生地で刀身に着いた血液を拭き取る。
「リザはネットワーク経由で、人形の体内のナノマシンにアクセスしている」
「なあ、さっきから訳が分からねえんだが、そのナノマシンとか、ネットワークとかって何なんだ?」
痣が呆れたように言う。男はふと何かに気付いたように口を開いた。
「そうか、お前は知らないのか」
そしてやや間を空け、応える。
「…つまり、俺やケーヒルのような連中を管理するために、大昔の研究者達が体内に紛れ込ませた小さな小さな機械だ。ネットワークてのはそれを画一的に制御するための、いわば操り人形の糸になるかな」
「ほう、それじゃあ、お前やケーヒルのおっさんの体内にも、そのナノマシンてのがあって、操り人形の糸も繋がっているってわけか」
「半分正解。確かにナノマシンは体内に残ってはいるが、俺もケーヒルもずっと前に外からナノマシンにアクセスされるルートを潰してる」
黒い男は言った。
「鬼の俺を目視や気配で尾行するなんてことは並大抵の連中じゃ不可能だ、それこそケーヒルや、リザ本人でもない限り。その上オフラインときたものだから、奴らは俺のナノマシンサンプルを持つクランケを襲撃して、その量子共鳴を用いた同期作用から俺の位置を割り出したんだ。この間仕留めた大男にしろ、いつの間にか尾行していたカマキリの化物にしろ、魔法の類いの代物ではなく過去の文明の遺物だと考えれば腑に落ちる。最初から最後まで、魔法があったのは操られてたクランケとやり合った一瞬だけ、しかもあれもリザのではなくクランケ自身のものを引き出させたのだろう。あいつは確か名だたる魔女の家系の出身だ」
男は刀を鞘に仕舞い、壁の本棚に立て掛ける。そのまま台所に向かうと陶器のコップを頭上の棚から取り出し、真鍮の蛇口を捻って並々と水を汲み、そして一気に飲み干した。
「…しかしまさかリザがクランケに目を付けるとは思わなかった。クランケはここ20年、どっかに潜りぱなしで気配すら掴めなかった、一体どうやって引っ捕らえたんだ」
「お前とクランケの嬢ちゃんの間にも色々あるんだな。どうしてお前のそのナノマシンとやらを嬢ちゃんが持ってんだ?」
痣がからかうのを、男は無視して続けた。
「これからリザを呼び出してみる。あいつは人形を通してこっちをモニターしているはずだ、それを逆手に取る」
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