くらがりの百足

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 所謂「神官」や「司祭者」、または「醒者」と言った宗教的支配者に統治される都市が多数を占める中、大陸北端に位置する大都市モクロスは、例外的に軍人を首長に持つ要塞都市であった。  三方を山、一方を海に囲まれたこの都市では、北部に軍事用大型帆船や商用ガレー船が出入りする水深の深い湾が接している以外、高さ30メートル以上ある分厚い防壁に囲まれた都市内部から外界を見渡すことはできない。日に幾度となく重い機材を積んだ荷馬車が出入りする石畳の表通りには無数の深い轍が刻まれ、その脇には鋼鉄の兵器を製造する工場が並び立っている。途切れること無く立ち昇る鉄臭い煙や湯気で空気は薄汚れ、海から風が吹いた日には町の南端部にまで壁を越えられなかった金属を含む気体が広がり、時に甚大な健康被害を及ぼしていた。  都市は行政府を市街地が取り囲む形で出来ていた。総人口80万人超の大都市にもかかわらず暴動の可能性を考えていない都市構造が採用されている理由は、強固な態勢で敷かれた警察組織の徹底した取り締まりによるものである。多くが沿岸の工場労働者であり、お世辞にも穏やかだとは言えない気性の者ばかりが住まう煉瓦造りの市街地であるが、日中深夜関係なく不自然なまでの沈黙に包まれていた。
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