くらがりの百足

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「『充血鬼』は、その身体から血液の最後の一滴が零れ落ちるまで強大な魔力を保ち続けると言う」 ケーヒルは顎髭に手を当てつつ言った。 「生半可な一撃では掠り傷すら負わせられないだろう」 「居場所を割り出して火を放つ。あいつの動きが活発化して以来12年やってるが、悉く外れ」 痩せた男は石の床に胡座をかく。 「日中、奴は体液の蒸発を恐れてねぐらに籠っている。そこを狙うには情報こそ命だし回数がかかるのも理解できるが、これ以上放火ばかりやってたら違う連中に目を付けられかねん。頻度を半年に一度と決めているとしてもだ」 「この12年で我々が得た教訓は、こちらから動けば無益な炎で罪の無い現世人が犠牲になるばかりと言うことだ。私の判断の誤りだ、認めよう」 「珍しいこともあるもんだな…」 痣は高い声で呟いた。ケーヒルは大きく息をつき、ガラス球の中の世界へと目をやる。球の上部では、光を落とした光源が夕陽を表現して優しく輝いている。林の中で小柄な四足歩行の動物が動いた。それは地面に顔を近づけ、何か食物を漁っている。 「…そうだ、私の犯した過ちだ。だからこそ、お前達の雇用主として方針転換を要請したい」 「高くつくからな」 痩せた男が言うと、壮年は黙って頷き、言った。 「例え1000年になろうとやり通す。あやつの存在は我々の明確な脅威であり続けている。即ち世界の脅威だ」 「具体的には、近頃俺たちを付け狙い始めた連中を可能な限り引っ捕らえる。今までとは違い、殺さず。それだけだな?」 「捕らえた者は私に引き渡せ」 「へえ、魔法漬け薬漬けの連中相手に尋問でもするのか?」 痣は嘲るように言ったが、ケーヒルはまた黙って頷いた。
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