監禁

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龍一は頭を振りながら右腕を動かし、顔にかかった前髪をかきあげた。 「ここは?」 「知るかよ」 高広の不機嫌な返答に、左手にかけられた手錠を見る。 そのまま何も言わず、考え込んだ。 「なんとか言ったらどうなんだ、元政府の工作員さんよ」 高広はタバコが無く、寂しくなった口をもてあましながら、龍一に問う。 「おたくなら、何か訳を知ってるんじゃねーの」 龍一は怪訝そうに首をかしげた。 「なんで俺が?」 「善良な一般市民には、こんな手錠でつながれる理由なんかねぇんだよ」 高広が手錠の右手を上にあげると、龍一の左手も一緒についてくる。 指先も通らない、太いパイプと壁の間に通された鎖が、苦情を言うように、ガリガリと壁を引っ掻いた。 「……一般市民ね」 龍一は意味ありげに唇を歪めた。 「なんだよ、その言い方は」 「自覚がないとは思えないんだがな秋場。お前のその頭脳は、国から24時間体制で監視されている。それほど世間的にお前は注目の的だし、そういう人物を一般市民とは呼ばない。それに――」 「あん?」 「善良な人間は、自分のことを善良だとは言わないものだ」 「……なるほどね」 高広は唇を歪めて笑った。 「まるで、あんたが善良だって言ってるように聞こえるね」 「悪いか?」 「自覚がないのはお互いさまってことだ」 高広は自分の頭脳が政府から注目されているだなんて考えたくもないし、龍一は本気で自分のことを善良だと思い込んでいる。 「けっ、いくら注目してたって、ろくなもんは作ってやらねーんだよ」 「俺は仕事を引退したんだ」 それぞれの思い当たる理由を、口々に否定して、互いにそっぽを向いた。
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