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「それにしてもあんたは、美百合が絡むと、とたんに能なしになるな」
龍一はチッと舌打ちした。
そして、
「二度と美百合を呼び捨てにするな。今度呼んだら、その腕、ねじり落として脱出する」
睨みつけるような眼差しと共に発せられた龍一の言葉に、高広は無遠慮に、
「ニヒヒ」
と笑った。
龍一は高広を無視して、太い金属パイプに糸ノコギリの刃を当てる。
「一点を違わずに刃を当て続ければ、いつかは切れるだろうが、時間がかかりすぎるな」
そう言いながら、糸ノコを前後に動かした。
「こっちの鎖の方が早いんじゃね」
高広が怪訝な顔で聞くと、龍一は繋がれた方の腕をあげて、
「無理だ。これは俺の手錠だから、チェーンカッターでも切れない。鍵も特殊なんだ」
「あんたの持ちもんかよ」
高広はケッと息を吐いた。
「どーりでその刃で鍵を開けねーなと思った。相変わらず物騒なもん持ちやがって」
ただの手錠なら、龍一と高広にかかれば針金一本で鍵をあける。
だがこの特別仕様の手錠には、さすがの龍一もお手上げらしい。
「で、参考までに聞くけど、糸ノコでこの鉄パイプ切るのに、何日かかるわけ」
「俺は間に合うかもしれんが、お前はまずアウトだな」
「自分だけ助かる気かよ」
「別にそんなつもりはない。もっと最善の策があるなら考えろ。頭脳労働者なんだろ」
顔もあげずに言う龍一のイヤミに、高広は、
「タバコがねーから、頭まわんねーんだよ」
憎まれ口を叩いた。
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