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するとまたプツンと音がして、モニターの電源が入った。
砂嵐の向こうに女の気配がするが、龍一も高広も、もう顔をあげようともしない。
すると女は、
「キスしてちょうだい」
キンキンした声でそう言った。
高広がおもしろそうに顔をあげる。
「タイプじゃねー女とキスする趣味はねーが、こっち来て俺らがその気になるよう誘惑してくれんの?」
高広は元ホストだ。
気分は乗らないが、敵が女で、目の前にいれば、口で言いくるめる手はいくらでもある。
しかし女は続けて、
「違うわよ。そっちのふたりでキスして見せて欲しいの」
と言った。
龍一は初めて顔をあげる。
高広は呆れて口が開きっぱなしになった。
「……あんたそっちの趣味なわけ?」
「そうじゃないけど、ちょっと興味を持ったの」
違うだろう。
明らかに、龍一と高広への嫌がらせだ。
「あー、ふざけんじゃ――」
高広は怒鳴りかけたが、龍一がそれを止めた。
「報酬は?」
女の声に面白そうな色が混ざる。
「そうねぇ。水と食料なんてどうかしら」
瞬間、高広の頭脳も回転した。
別に命乞いをする気はないが、水と食料を持ってくるなら、相手側から必ず接触がある。
こんなモニター越しのやりとりでは、まったくラチがあかない。
何か動ける方法が見つかるかもしれない。
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