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高広の黒いシャツは、糸ノコをオモリにして、まっすぐに飛んだ。
そして見事に、モニター脇のカメラのレンズに、ダランとぶら下がるように引っかかる。
「キャッ、何よこれ」
モニターから女の驚いた声がする。
高広と龍一の思惑どおり、シャツが邪魔をして、女の視界が塞がれようだ。
「ちょっと、何したのよあんたたちっ」
喚く女を無視して、高広と龍一は互いに視線を合わせた。
ふたりを『見る』ことが目的なら、女は邪魔になるシャツを外さずにはいられない。
つまりは、誰かがここに、シャツを外しに訪れるということだ。
「ちゅーせずに済んだな」
「残念だったか?」
笑えない龍一の冗談に高広はもう慣れた。
顔色ひとつ変えることなく、
「来たやつをどう捕まえるかが問題だな」
高広は顎をさすった。
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