298人が本棚に入れています
本棚に追加
ところが、
「おい、有坂、あれ」
「ああ、ノコギリだな」
呟いたところで、一斉に身を起こして駆け出した。
当然、繋がれた互いの腕に邪魔されて、ちょうど中央で鎖がビンと伸びる。
「このてめっ、俺に任せとけよっ」
高広は言って、龍一の足を後ろに蹴り出すように引っ掛けた。
龍一は反射でそれをかわすが、瞬間、
「もらい」
高広が全体重をかけて腕を引っ張ったので、龍一の体はパイプを支点に、後ろ向きにひっくり返る。
その隙に高広は、目の前に見えている『それ』に左手を伸ばした。
「くっ、あと1メートル」
どこにでもあるみかん箱の上に、無造作に置かれたソレは糸のこぎり。
ギリリと骨がきしむほど腕を伸ばすが、届かない。
「利き腕じゃないんだ、無理をするな」
龍一の声がして、高広の右腕が勢いよく引っ張られた。
高広は後ろにバランスを崩す。
「痛ってー。腕が抜けるだろーがよ」
「そんなに力はいれていない」
龍一は鎖をたぐって、パイプからの距離をちょうど真ん中に持ってきた。
「俺の方が腕も足も長い。お前よりは届く確率が高い」
「んだとー、足の長さは一緒ぐれーだろーが」
いきり立つ高広を尻目に、龍一は一歩二歩と進み出た。
「壁にへばりついてろ。少しは確率があがる」
「……命令すんなよ。えっらそーに」
高広は不機嫌に返事して、壁際に寄った。
最初のコメントを投稿しよう!