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龍一はしゃがんで、ちょうどみかん箱と背の高さを同じ位置にし、スライディングするように足を伸ばす。
なるほど、確かに、腕より足の方が長い。
龍一の身長に腕の長さを足せば、みかん箱との距離はずいぶん縮まった。
「蹴っ飛ばすんじゃねーぜ」
「俺はそんな失態は犯さない」
龍一は涼しい声で言って、ぐっと足を伸ばした。
高広の体も壁にくっついている。
手錠に繋がれた右手は、もうパイプと壁の間にめり込みそうだ。
「おい、痛ってーよ。早くしろ」
高広が苦情の悲鳴をあげたところで、龍一のつま先が糸ノコに触れた。
蹴ればいいのなら、造作もない。
ただこれを、こちら側に引き寄せなければならないのだ。
「くっ」
龍一の手錠の左手も甲の一番厚い部分に引っかかって、赤い痕を付けている。
「おいおい。俺と代わろーか」
ちゃちゃを入れる高広に、
「俺の方が2センチは長い」
龍一は言い放った。
「はあっ!、ちゃんと測ったわけじゃねーだろーがよ。ぜってー一緒ぐらいだね」
壁に頬をくっつけて叫ぶ高広に、
「何を誤解している。身長の話だ」
龍一はシレッと言い返す。
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