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「長いじゃなくて、高いって言えよ」
高広がぶつぶつ言っていると、カランと音がして、糸ノコが箱から落ちた。
「お、やった」
後はもうたぐり寄せればいいだけである。
だが、
「ちょっと待ったぁ」
高広が腕をぐいと引っ張って、龍一をノコギリから遠ざけた。
龍一は不服そうに振り返る。
「俺が取るわ」
「意味は?」
龍一がイライラとした調子で聞く。
無駄が大キライな男なのだ。
「だって、俺の方がか弱いじゃん。武器持つなら、俺だね」
高広は言って、自分の胸をポンポンと叩いた。
「俺がお前を襲うとでも?」
龍一が不機嫌にそう言うので、
「俺は可能性の話をしているだけ。だってあのノコ、どー考えても、手錠の鎖も鉄パイプも切れそーにねーもん」
ふたりして、床に落ちた糸ノコギリを振り返れば、薄いベニヤ板でも切るならまだしも、せいぜいが木の切れ端が限界だろう。
「なるほど。あれで切れそうなのは、ここでは人体だけだな」
「フツーの顔してコエーこと言ってんじゃねーよっ」
高広が怒鳴った。
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