0人が本棚に入れています
本棚に追加
ある日、僕は一目惚れした。
と、言っても、カノジョと話した事はない。
僕は、ガラス越しにカノジョの姿を見ているだけだ。
向こうは僕に気付いていない。
最初はそれで満足だった。
カノジョのクリッとした黒い目、小さく細い手。かわいらしい小ぶりな鼻。そして、愛嬌のある頬っぺた。
少し出っ歯ではあるが、そこもチャーミングポイントなのだ。
その姿を見ているだけで満足だった。
最近は違う。
もっとカノジョの事を知りたい。
カノジョが何を考えているのか知りたい。
僕の事をそのつぶらな瞳で見て欲しい。
だが、カノジョはそんな僕の願望などお構いなしに食事に夢中だ。
いつもそうだ。
カノジョは人前だろうが関係なくモリモリと食事を行う。そこも魅力の一つだ。
カノジョと一緒に暮らす方法ある。
あるのだが、その方法を使ってよいのか?
僕には抵抗感があった。
あぁ、せめてカノジョの声を聞きたい……僕は頭がオカシイのだろうか?
今もカノジョは黙々と食事を続けている。
僕はさらにガラスに顔を寄せた。
……ここにいる、僕はここにいるよ! こっちを見てくれ!
すると、僕の想いが通じたのか、カノジョは驚いたように顔を上げた。
そして、声が聞こえた。
「――あの、お客様、申し訳ございません。そんなに顔を寄せられると、ハムスターが怖がってしまいます」
最初のコメントを投稿しよう!