第1章

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「おやすみ、お母さん」  通話を終了させた後でも、お母さんが架くんに入れ込んでいるのかがわからない。言えないのか、言いたくないのか。訊いても意味がない以上、諦めるしか方法はなかった。  携帯をテーブルに置いた。気持ちを落ち着けてから、まず段ボールを片付けることにした。  お母さんが言った通り、中身の大半は衣服だった。後は眠る時に抱いているクマのぬいぐるみや携帯の充電器、外出用のバッグやミュール。その程度の荷物だった。帰ろうと思えばいつでも帰れる。逆に言えば、段ボールを二つも必要ない気がする。  段ボールの中を片付けた後、明日からどうなるのかを考えた。 「千鶴に教えてもらったのは、スケジュールにある四色の分担だったけど」  パソコンを立ち上げ、スケジュール帳を開く。赤、青、黄、紫は教えてもらったが、緑は教えてもらっていない。二ページ目に詳細が書かれているという架くんの言葉を思い出し、二ページ目を開く。そこにはちゃんとマーカー別の講師と担当科目が記されていた。 「えっと、残りの緑色は竜胆寺架先生で、勉強その他と」  酷い違和感がある。 「嘘でしょ」  架くんは期末も中間も、テストの点数は校内で総合一位。記憶が確かなら、中学校からその事実は変わらない。それくらい、頭がいいのだ。実はそれだけじゃなく運動も得意。性格はあんな感じだが、全体的に万能だった。 「しかもその他ってなんか怖い響きだ」  緑色は朝七時から九時。朝は学校に着いてからホームルームが始まるまでだろう。一日二時間勉強することになるけど、それでどれだけ成長出来るんだろう。私の学年順位はど真ん中なので、結構頑張らないといけない。  しかし、考えても始まらない。ここまできたらもう遅い気がする。  鞄からスケジュール帳を取り出し、一日の予定を書き込む。明日から朝五時起床。ここでは今までの生活を忘れなくてはいけない。  携帯のアラームを五時にセットし、ベッドに潜り込む。ベッドは柔らかく、寝心地はよさそうだった。 「明日は明日の風が吹く、かな」  仕方ないから、一度諦めてみようと思う。  そうして私は、温かい微睡みに飲まれていった。 「――う、陽。五時を過ぎましたよ」  太陽の光が目蓋に当たり、あまりのまぶしさに目をこする。  ベッドから脚を下ろし、あくびを一つ。目を開ければ、制服姿の千鶴がいた。 「おはよう、千鶴」
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