第1章

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「おはようございます。早急に着替えて食堂に行きますよ」  千鶴は問答無用で私のパジャマを脱がし始める。 「そ、それくらい自分でやるから! 先に食堂に行ってて!」  千鶴から制服をひったくった。不服そうにしながらも、千鶴は部屋を出て行った。  ドアの上にある壁掛け時計に目をやれば、時刻は六時だ。完璧な寝坊。スケジュールによると朝食は五時半から。悠長にしていられない。  急いで制服に袖を通し、鞄を肩に掛ける。地図を見ながら食堂を目指した。  一応場所は覚えていたつもりだが、万が一ということもある。  私の部屋からあまり離れていないのが幸いし、駆け足で食堂に滑り込む。食堂では昨夜と同じような光景が広がっていた。 「陽、六時半までに朝食を済ませてください。その時刻を過ぎたら学校に向かいます」  私はトーストと目玉焼きを口に詰めた。行儀は良くないが、他に手はない。 「明日からはちゃんと起きて朝食を摂れ。誰にでも余裕を見せるのは大事だぞ」  隣にいる架くんはティーカップから口を離し、優雅にそう言った。私は朝食を口いっぱいにため込んでいるため、首を縦に振ることしかできない。 「陽、これを飲んでください」  千鶴が右側からティーカップを渡してくれた。色合いからして紅茶だ。  何度か咀嚼を繰り返し、千鶴からもらった紅茶を飲み干す。 「あ、ありがとう」 「問題ありません。鞄をこちらに」 「いやでも」 「いいから。一応ですが陽は客人ですから」  言われた通り、自分の鞄を千鶴に渡した。千鶴は既にもう二つつ鞄を持っていた。きっと千鶴と架くんの鞄だろう。  私が食べ終わったのを確認した架くんは、ティーカップを置いて立ち上がる。  歩き出す架くんだが、歩幅が違うのでついていくのが精一杯だ。 「坊ちゃん! 行ってらっしゃい!」  食堂を出るとき、使用人さんの一人が声を掛けた。そして、食堂にいる人たちの「いってらっしゃい」というたくさんの声が一つにまとまった。 「うむ、いってくる!」  架くんは手を挙げてそう言った。信頼されているのがよくわかる。  長い長い廊下を歩き、屋敷を出る。昨日下ろしてもらったときと同じ位置に、昨日と同じ大きな車が停まっていた。黒塗りのため、客観的に見ればかなり怪しい。  小宮さんがドアを開けてくれて、私と千鶴が後部座席に座った。架くんは助手席が好きなのかもしれない。
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