16人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはようございます。早急に着替えて食堂に行きますよ」
千鶴は問答無用で私のパジャマを脱がし始める。
「そ、それくらい自分でやるから! 先に食堂に行ってて!」
千鶴から制服をひったくった。不服そうにしながらも、千鶴は部屋を出て行った。
ドアの上にある壁掛け時計に目をやれば、時刻は六時だ。完璧な寝坊。スケジュールによると朝食は五時半から。悠長にしていられない。
急いで制服に袖を通し、鞄を肩に掛ける。地図を見ながら食堂を目指した。
一応場所は覚えていたつもりだが、万が一ということもある。
私の部屋からあまり離れていないのが幸いし、駆け足で食堂に滑り込む。食堂では昨夜と同じような光景が広がっていた。
「陽、六時半までに朝食を済ませてください。その時刻を過ぎたら学校に向かいます」
私はトーストと目玉焼きを口に詰めた。行儀は良くないが、他に手はない。
「明日からはちゃんと起きて朝食を摂れ。誰にでも余裕を見せるのは大事だぞ」
隣にいる架くんはティーカップから口を離し、優雅にそう言った。私は朝食を口いっぱいにため込んでいるため、首を縦に振ることしかできない。
「陽、これを飲んでください」
千鶴が右側からティーカップを渡してくれた。色合いからして紅茶だ。
何度か咀嚼を繰り返し、千鶴からもらった紅茶を飲み干す。
「あ、ありがとう」
「問題ありません。鞄をこちらに」
「いやでも」
「いいから。一応ですが陽は客人ですから」
言われた通り、自分の鞄を千鶴に渡した。千鶴は既にもう二つつ鞄を持っていた。きっと千鶴と架くんの鞄だろう。
私が食べ終わったのを確認した架くんは、ティーカップを置いて立ち上がる。
歩き出す架くんだが、歩幅が違うのでついていくのが精一杯だ。
「坊ちゃん! 行ってらっしゃい!」
食堂を出るとき、使用人さんの一人が声を掛けた。そして、食堂にいる人たちの「いってらっしゃい」というたくさんの声が一つにまとまった。
「うむ、いってくる!」
架くんは手を挙げてそう言った。信頼されているのがよくわかる。
長い長い廊下を歩き、屋敷を出る。昨日下ろしてもらったときと同じ位置に、昨日と同じ大きな車が停まっていた。黒塗りのため、客観的に見ればかなり怪しい。
小宮さんがドアを開けてくれて、私と千鶴が後部座席に座った。架くんは助手席が好きなのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!